バンドのこと

優しさがつける傷は返しの付いた刃物のように複雑な跡を残す。しかも化膿し始めてからやっとそのことを認めることができる。まるで春の陽気のよう。こうやってまた君好みの文を書いている。

1年と少し組んでいたバンドを辞めた。子供ができてしまって結婚せざるを得なく、まともな職業に就くために辞めた。高校を卒業してバンドがしたいからって名目で勉強することを辞めて若さを質に入れながら生活してきた。生まれてくる子供。死ぬチャンスを得たわけだ。

僕があの子につける傷は取り返しのつかない複雑な跡を残す。しかもお腹が膨れ始めてからやっとそのことを認めることができる。まるで春の陽気のよう。こうやってまた僕好みの文を書いている。

子供もいないし結婚もしない僕は死ぬまでバンドを辞めない。こんな狂言を言いたくなるような優しさの中で僕は先のバンドを抜けるのだ。

サマー エンディング

夏の海は不浄者の心も洗う

一真昼間の夏の海に200円くらいの切符を買って遊びに行った女と飲んだ、その時はお酒なんか飲めるご身分じゃなかったけど、今日は違う。お前の好きな物全部なんでも頼んでいいぜって俺は不浄者ながら言える歳になった。言いたいことは1つしかないのは僕も分かってる、僕の不浄さ故に分かれた相手。お互いに数杯の酒を交わし無言の時間を昔と同じように 眠いね なんて言い合った。

俺は今ピンサロにいる。財布に入った一万円を使いきりたかったから、君のため、いや、お前のために銀行から下ろした一万円を使い果たすため。

彼女たちの枕詞は隙がない、俺の節々まで、俺に似た匂いを残すからだ、落ちもクソもへったくれもない。背伸びして買ったラッキーストライクは時間を蝕む。

あの子に会う時に買えば良かった煙草を寂しさの中でやけくそに買ってしまった、馬鹿野郎、会う時に見得の晴れる男なら俺はシケモクのために汗を流してねえよ。

抜けもしない女に、次会う時だねなんて言われて、抜け目のない君から手放しのありがとうを言われる。

不浄はどうでもいい町の喫煙所で、あの女云々言ってる、朝日をポッケにしまった奴らのためのものじゃない、間違いなく俺のものだ、俺が一番似合う。財布の中には200円くらいしか入ってないけど。

うんこ13

スウェード生地を指でなぞると、恍惚な死への純粋無垢な道筋のように、 僕のために跡をつける。

寝息が耳元で 生き伸びようと嘆く。

睡眠とは延命への意思表示である。我々は日々を生きているのではなく、自らの意思で日々延命しているだけだ。(自分の手垢の付いてない作用で自らの意思が通用しないことも認める、冒涜する気は無い。)

女と2人別々の夢で良い、2人残さず生きていたいのなら傑作じゃないか、そう思う。

うんこ12

例えば女を抱きながら 厚く引いた口紅が血管の中を駆け回る蛆虫に見えてきて 精神から腐敗しかけた肉体が放つ 劣化しゆく着せ替え人形の焦りのような異臭が鼻をついても オールライトオーケー 君が何回飛んでも止めないよ 地獄と天国のスーパーボールが脳みその中で行ったり来たり 明日と昨日の区別もいらない 目の前にいるのは俺だけ 心臓に刺さったままの魚の骨が 涙を流した少女を慰めてる ずっと慰めてる 声をかけちゃいけない 二度と戻れなくなるよ 夕暮れの空に足をつけて赤い風船右手に 母親の手を逆の手で握りしめてる 涙は僕を濡らす 性的で肉体そのものを濡らす もっと濡らして欲しい 咥えてくれても良い 馬鹿が1つだけ知ってることは 俺に夢中であるべきことだけ 真っ二つに折れた君の右手は赤い風船掴んだまま 君がそれでも笑ってくれてるところが好き

うんこ11

若草色に光る春と

若い女を待つ僕の緑色の煙草は残り数本

これが空になればきっとすぐに夏が来る

最近よく思い出に泣く

学生の頃 当時付き合ってた女の子と夏の海に行った

僕はポケットに手を突っ込みっぱなしの男だったから その子と気の利いたデートなんかあんまり行かなかったけど 初めてちょっとだけ遠出して好きな人と海に行った 空が高くて 半袖半ズボンでカブトムシを捕まえにいく少年のような太陽が心地よかったすごく 日々の絶望なんか似合うわけがない 無人駅のホームで待ち合わせをして 僕は先に着いてラッキーストライクを吸ってた 彼女が隣に座っても 照れくさくって「なんかごめん」と「眠たいな」で会話の間を繋いでた 列車は焦らしながら夏の風を連れてやってくる 冷房の効いた車内 後のことはぜんぶ忘れたけど 春に気づいて夏を思い出して 海へ向かう電車に僕らを探してる

うんこ10

実に愉快

夜遅くに帰ってきて

ジョニーサンダースを聴く

僕は天下で一番ジョニーサンダースが好き

寂しさの涙で濡れた優しい目をしてる

僕は優しくない 寂しがり屋だけど 微塵も優しくない

もしも恋人と2人で死ぬことがあったら

その時に思い出すのはきっと他の女

川で死ぬのかな 海で死ぬのかな

徒然なるままに

死に際にすがるべき思い出を

詩集の好きな言葉がある頁に折り目をつけるように

選り出しては首を傾げてみたり頷いてみたりしてる

死生観の成熟にきっと手を貸してくれるはずと信じて

僕の現時点の死生観はまるでジョニーサンダースのように冷たく甘いロックンロール

うんこ9

死にながら生きてる

別に辛い過去があるわけじゃない

僕のひどく寒く愛が枯渇して

寂しさを握りしめてる感情は

きっと空想で

テレビのコマーシャルが始まれば

すぐに携帯の画面に視線を落とすようなものだと思う

それが若さだと笑うのは無責任で

これこそが僕の性格だと胸を張るには無謀で

理由も分からず死にたくなるとは話は別だが

全ての物が息のしていないものに見えてくる

愛の言葉や文学それ同等の表現物全てが

テレビのコマーシャル以下になる瞬間が存在する

虚無というと軽率でダサいので

恋をしてない時に見るフランス映画のような比喩を使うと

ゲームセンターに対する愛のない感情を消すために行う全ての試行錯誤が亡者を蹴り落とすカンダタを許してしまう仏様のいる蜘蛛の糸くらい面白くないものに見えてしまう

これも若さや性格のせいなら

仏様あんたは本当に外道だと叫んで千切って破って叩いて踏みつけて暴れ回ってやるぞ

一番偉いのは僕じゃなくていいけど

僕の感情を直接触っていいのはあの子と俺だけにしてくれ