バンドのこと

優しさがつける傷は返しの付いた刃物のように複雑な跡を残す。しかも化膿し始めてからやっとそのことを認めることができる。まるで春の陽気のよう。こうやってまた君好みの文を書いている。

1年と少し組んでいたバンドを辞めた。子供ができてしまって結婚せざるを得なく、まともな職業に就くために辞めた。高校を卒業してバンドがしたいからって名目で勉強することを辞めて若さを質に入れながら生活してきた。生まれてくる子供。死ぬチャンスを得たわけだ。

僕があの子につける傷は取り返しのつかない複雑な跡を残す。しかもお腹が膨れ始めてからやっとそのことを認めることができる。まるで春の陽気のよう。こうやってまた僕好みの文を書いている。

子供もいないし結婚もしない僕は死ぬまでバンドを辞めない。こんな狂言を言いたくなるような優しさの中で僕は先のバンドを抜けるのだ。